拒絶の理由を発見しないから

自然言語を利用した衒学的思想の駄作のうち低度のものを掲載しています。

新型コロナ騒ぎでよく分かった,「科学」に基づかない方が良かった場合

 我が国のコロナ対策がどうであるかについては山ほど論評があり,相反する2つの考えに同意してしまうような状態ですらあるので,これについては論じない。

 今回のコロナ禍によって,科学的知見に基づいて何かをするのは難しい場合もあることを身に染みて感じた(もとより科学の性質上当たり前ではあるのだが)。最も簡単は例は,Aが有効であるかどうかということを決める際に,科学的にはどちらか分からないという結論が出ている場合である。今回よりややこしかったのは,Aである可能性を示唆する研究が存在しているものの,一般化できるほど実験ができていない知見があったからである。結果的に,「科学的な知見」と正反対の知見が今回得られた部分すらある。

 その代表がマスクである。マスクをつけても感染を防ぐことはできないとする論文があり,これに基づいてマスクをしても意味はあまりないということがある程度知られていたはずである。

  1. Offeddu, V., Yung, C. F., Low, M. S. F., & Tam, C. C. (2017). Effectiveness of masks and respirators against respiratory infections in healthcare workers: a systematic review and meta-analysis. Clinical Infectious Diseases, 65(11), 1934–1942. 

    https://doi.org/10.1093/cid/cix681

  2. MacIntyre, C. R., & Chughtai, A. A. (2015). Facemasks for the prevention of infection in healthcare and community settings. BMJ, 350

    https://doi.org/10.1136/bmj.h694

  3. Canini, L., Andréoletti, L., Ferrari, P., D'Angelo, R., Blanchon, T., Lemaitre, M., ... & Carrat, F. (2010). Surgical mask to prevent influenza transmission in households: a cluster randomized trial. PLOS ONE, 5(11), e13998. 

    https://doi.org/10.1371/journal.pone.0013998

  4. Jacobs, J. L., Ohde, S., Takahashi, O., Tokuda, Y., Omata, F., & Fukui, T. (2009). Use of surgical face masks to reduce the incidence of the common cold among health care workers in Japan: a randomized controlled trial. American Journal of Infection Control, 37(5), 417–419. 

    https://doi.org/10.1016/j.ajic.2008.11.002

 結果的に,これらの論文は制約が強い条件下(医療機関の中とか)で成り立ちうる内容を述べていたに過ぎず,そこから外れた今回のコロナ禍では効果があったことになる。問題なのは,パンデミックにマスクが有効かどうか分からないときに,異なる環境下ではあるがマスクの効果は限定的だとする論文がいくつもあるのに,マスクが効果的だという論文が1つも見当たらない場合,前者を採らざるを得ないのではないかということである。もしそうでないとすると,証拠がなくてもとりあえず有効かもしれないことはなんでもやるということになる。

 はっきり覚えているのだが,WHOは当初,2003年のSARSや2009年の新型インフルエンザの経験に基づき,渡航制限は効果が無いからすべきでないと発表していた。確かにそういう論文がある。

  1. Bajardi, P., Poletto, C., Ramasco, J. J., Tizzoni, M., Colizza, V., & Vespignani, A. (2011). Human mobility networks, travel restrictions, and the global spread of 2009 H1N1 pandemic. PLOS ONE, 6(1), e16591. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0016591
  2. Mateus, A. L., Otete, H. E., Beck, C. R., Dolan, G. P., & Nguyen-Van-Tam, J. S. (2014). Effectiveness of travel restrictions in the rapid containment of human influenza: a systematic review. Bulletin of the World Health Organization, 92, 868–880D. https://doi.org/10.2471/BLT.14.135590

ところが,台湾やニュージーランドが入国制限をして成功しているのを今では誰もが知っている。これも過去の論文とは様々な条件が異なるのだろう。しかし,渡航制限は無意味(あるいは逆効果)という「科学的知見」があり,渡航制限は効果的という報告がない場合に,どちらを取るのが科学に基づいた判断なのだろうか。

 20時以前なら会食しても感染しないなどといった判断は論外としても,科学的な根拠に基づいた判断が本当に下せたのか,「科学的根拠」の信頼性(一般性)が高くなかった可能性があるため,極めて怪しい。

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